盲目になろうろ思い試みに針を以て左の黒目を突いてみた
黒眼は柔らかい二三度突くと巧い工合にずぶと二分程這入ったと思ったら
忽ち眼球が一面に白濁し視力が失せて行くのが分かった
出血も発熱もなかった痛みも殆ど感じなかった
次に同じ方法を右の眼に施し瞬時にして両眼を潰した
『春琴抄』 谷崎潤一郎

世田谷パブリックシアターでサイモン・マクバーニー演出「春琴」を観る。
薄暗いままの舞台上で静かに始まった。
雑踏の音が聞こえたと思ったら、突然ドアがバタンと開く。
これには、春琴という物語が始まると思っていたのでびっくり。
ナレーションが始まると、まるで本を読んでいる時に頭の中で描き出す情景のように
舞台に演者が出てくる。
音楽は本條秀太郎さんの三味線とそれに合わせた地唄だけ。
三味線はシーンの様々な音を出していたりする。
音といえば、襖を竹竿で模しているのだけど、
それを開けるたびに、スーッと息で音を模していました。
この竹竿も、三味線になったり、お墓の上にある木の枝になったり、
叩いたりする時の音に使ったりと、工夫されてました。
畳は軽いマットになっていて、それを様々な形へ動かしてくことによって
それが部屋になったり、廊下になったり。
そう見えてしまうのも不思議なんだけど。
演出したのは日本人では無いけど、日本らしさを美しく表現していて
日本人よりも日本の美を理解されてるなー・・・と思いました。
こんなにも集中して舞台を聞き入って観たのは初めてのような気がする。
途中、白紙に春琴を映し出したり、白紙がひばりとなって飛び回ったり
空へ飛んで行ったり。暗闇だからかその白さが際立ってたな。
最初、春琴は人形だったけど、途中から人間なのに人形として動かされているのは
びっくりしました。。本当に人形のように見えてしまったから。
そして、狂って叫びながら春琴はようやく人間になります。
感情の変化、声も子供っぽさは無くなり大人らしくなってました。
そして、「あんた、口臭いんや!」って言い放ちお弟子さんに傷を作るところは
ちょっと笑いそうになりました。(会場はシーンとしてたけど)
この舞台を見終わって、トークショーがありました。
世田谷パブリックシアター芸術監督をしている野村萬斎さん、
佐助を途中から演じられた高田恵篤さん、そして三味線の本條秀太郎さんの3名。
ロンドン公演の時のお話しや、サイモン・マクバーニーさんのお話しを聞くことができましたよ。
小説『春琴抄』を初めて読んだのは、中学のころだった気がするけど
多分パラパラと見ただけで、読んではなかったんだと思う。
薄い本だからって思って手に取ったのに、句読点が少なく文字がたくさん並ぶ文章。
舞台を見る前に読んでみると、スラスラとは読めないけど
どんどん吸い込まれていく本だった。
まるで本当にあったかのように描かれていて、
小説というかドキュメンタリーみたいで、実際に存在していた人物について
語られて調べられて述べられているような気すらする本です。
再演されたおかげで、
久しぶりに深くてダークで美しいと思える本と舞台に出会えました。
ありがとうございました。
帰り道、頭の中にはビートルズの曲「ミシェル」が流れてました。
なぜだろう・・・。

今日は3月10日。
東京大空襲から64年。
世界のどこかで起っている争いが早く終ることを願います。

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